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【新築で薪ストーブを検討している方へ】失敗から学ぶ薪ストーブの実際

・薪ストーブを計画したいけど実際どうなの?

・どんな作業やコストやリスクがあるのかわからないから不安。

それらの不安はこの記事を読んで頂くことで解消し、薪ストーブの実態が明らかになります。

なぜなら、薪ストーブを計画したときに必要なメンテナンス、コスト、リスクを現役建築士が紹介するからです。失敗談や施主の感想も合わせてご紹介します。

この記事を読んで薪ストーブやっぱ止めようと思う方もいるかもしれませんがご了承ください。

でも、住んだ後に後悔するより事前に真実を知ったうえでやめられるのならそれはそれで良いと思います。

薪ストーブを良く知らない方に、この記事からその実態を学んでいただけたら幸いです。

薪ストーブの魅力

薪ストーブは室内にストーブを設置し、薪を燃焼させて暖房するという原始的な暖房手法です。

昔はどこの家庭でも同じような暖房手法だったのですが、利便性を求めて燃料が灯油、ガス、電気に変化していきました。

しかし今、薪を燃やすことに改めて魅力を感じ、原点回帰する人が増えています。その主な魅力として、

  • 火を見ると落ち着く
  • 圧倒的な暖房能力
  • 火育ができる
  • とにかく見た目が良い

などが挙げられます。

火を見ると落ち着く

火は視覚的に安らぎを与えます。ろうそくの火、キャンプファイヤー、焚火などを眺めて心が落ち着くという経験は誰しも経験があると思います。

これは本能的なもので、遺伝子の記憶に関係があると言われています。

ヒトの歴史は600万年と言われていますが、農耕・牧畜が始まったのは最後の1万年、高度経済成長を遂げたのは最後の数百年です。人類の歴史のほとんどは狩猟採集生活なのです。

狩猟採集生活では定住という発想がなく、夜に火を囲いながらその日に食べれる食糧と寝ることができる場所があるということが何よりの安心でした。火を見ると落ち着くのは、そんな古来の日常の体験や感情を遺伝子が記憶しているからかもしれません。

ゆらゆら揺れる炎を見ながらゆっくりと寛げるというのは現代でも最高の贅沢かもしれません。なかなか日常では触れることのできない木が燃焼する匂いや煙突から出る煙などを体感できることも薪ストーブの良いところです。

圧倒的な暖房能力

薪ストーブの暖房能力はケタ違いです。

家庭用エアコンの暖房能力は小さい容量で6畳用、大きい容量で30畳用ほどなのに対して薪ストーブは50~80畳用というタイプがザラにあります。

もちろん庫内にくべる薪の量と燃焼の具合次第なのですが、正しく能力を発揮させればそれくらいまでの部屋を暖めることができるということです。

火育ができる

木を燃やして火を身近に感じることで火育ができます。

火育は『火を避ける』のではなく『火にふれる』機会を設けることで火の魅力とその危険性を学ぶというものです。

焚火や花火ができる場所は少なくなっています。暖を取りながら火に触れることができるというのは現代社会では貴重な体験です。

とにかく見た目が良い

薪ストーブはとても雰囲気が良いです。

LDKに薪ストーブがあるだけで一気に主役になります。インテリアのテイストも家具のレイアウトも変えてしまうほどのパワーを持っているのが薪ストーブです。

薪ストーブのデメリットや失敗談

前項のようなメリットがありながらも、デメリットが多いのも事実です。そもそも、たくさんの不便を解消するべくエアコンやヒーターなどのテクノロジーを駆使した進化がありました。

薪ストーブの現実をしっかりと把握しておきましょう。

コスト(設置代)

こんなにコストが掛かるなんて…

薪ストーブの設置にはとても金額が掛かります。

  • 薪ストーブ本体 …20~100万円
  • 煙突設置    …40~70万円
  • 薪ストーブ周辺床、壁にタイルなど設置 …20~50万円
  • その他材料費等 …5万円

安くて100万円前後、機種が高いもの選んだり工事に費用が掛かるケースなどであれば200万円を超える金額が必要になります。

『でも、薪ストーブをつけることで空調代は節約できるのでは?』

という声も聞こえてきそうですが、答えはNOです。薪ストーブが賄ってくれるのは暖房だけで夏場は冷房を付ける必要があります。

薪ストーブを付けてもエアコンは設置しなければいけません。

つまり、薪ストーブ設置に関わる100~200万円は建築費用に単純にプラスして考える必要があります。

コスト(薪代)

薪代ってこんなにかかるの…?

一時間に1~2キロの薪を消費します。これをホームセンターで調達していたら大変な金額です。

計算してみます。

【以下のように仮定します】

  • 薪:20キログラム2500円
  • 暖房時間:1日あたり4時間
  • 薪の使用量:1時間当たり1.5キログラム

【計算】

1日の薪の使用量 1.5×4=6キログラム

30日の薪の使用量 6×30=180キログラム

30日の薪の金額 180÷20=9 9×2500=22500円

1か月での薪の使用量が22500円です。電気代やガス代や灯油代よりもはるかに高い燃料代となってしまいます。

以上の理由から薪を買うのは大変です。薪の調達に困らない方にしか薪ストーブはお勧めできません。

薪にかかる手間

重いし、場所を取るし…薪の管理が大変…

薪に掛かる手間は3つあります。

  • 調達の手間
  • 保管の手間
  • 運ぶ手間

調達の手間

薪は購入するか、自身で木材を割いて薪を作るかのどちらかで調達する必要があります。何れにしろかなりの手間です。

冬場日に日になくなっていく薪をきらさないように調達するのは大変なストレスですし、女性一人でやろうともなるとかなりの重労働です。

自動的に供給してくれる電気やガスが如何に楽かを思い知ることになります。

保管の手間

家の脇に薪を積み上げている家を見たことがありますか?薪はかなりの場所を取ります。

また、ただ単に場所があればよいという問題ではなく、薪は十分に乾燥させる必要があります。

一般的には製材後2年間乾燥させることで薪ストーブに適した含水率(木材に含まれる水分の量)になると言われています。

スペースがあって、屋根があって、風通しが良くて…と考えると、理想をいうと車一台位分のガレージくらいスペースが必要です。

薪ストーブをするからには色々な意味で余裕が必要です。

運ぶ手間

毎日薪置き場から薪ストーブまで薪を運ばなければいけません。重たい薪を都度運ぶのはとても大変です。

普段はよくても、腰を痛めているとき、体調が悪いときなど考えると、結構なストレスになるかもしれません。

掃除の手間

掃除にもお金がかかるの…?

黒いすすがたまる煙突はシーズン終了後、最低年に一回の掃除が必要です。

また、薪ストーブの炉内に溜まった灰も定期的に処理する必要があります。

特に煙突は掃除が大変なので、専門業者に掃除を依頼することもできます。その料金は、

  • 煙突単独の掃除で25000円前後
  • 煙突+薪ストーブ本体の掃除で40000円前後

くらいが一般的です。(参考:https://arigataya.jp/ より)

着火の手間・薪の追加の手間

全然火が付かないし、いつの間にか消えてるし…

BBQやキャンプの自炊の時に着火に手間取ったことはありませんか?薪ストーブはあの着火の手間が都度掛かります。

また、木が燃えると新しい薪を追加しなければいけません。暖房を継続するために薪をくべないといけないので目が離せません。

毎日…できますか?

火災の危険

煙突や家の壁から火が上がることがあるって本当?

煙突にすすが詰まってしまうと火災の危険があります。(煙道火災

専用のブラシなどのメンテナンス用具を使用した正しいメンテナンスと、煙突にすすが付きにくい燃やし方をしてくれる薪ストーブ商品を選定する必要があります。

また、長時間熱にさらされた家の木材が極度の乾燥状態になり、急に発火するという現象もあります。(低温炭化

燃焼部からの輻射熱を確実に遮るストーブの構造と床と壁の工事が必須となります。

即暖性がない

暖めるまでにこんなに時間がかかるの…

即暖性とはすぐに暖まる性能のことです。薪ストーブって部屋が暖めるまでに時間がかかるんです。

最も即暖性のある暖房器具はエアコンやファンヒーターです。一気にフル稼働して、暖まってきたら落ち着くという機械的な動きを薪ストーブがしてくれるはずもなく、ちびちび燃える火を眺めて1時間ほど待つほかありません。

利便性は悪いと言わざるを得ませんが、揺れる炎を眺めて部屋が暖めるのを待つのも薪ストーブの醍醐味です。でも、忙しい朝などには少し不向きかもしれません。

近所迷惑

お隣さんに悪いから今日もやめとこうか…

住宅地は隣家が接近しています。当然煙突からの煙の影響が近隣にいってしまうため、近所迷惑になります。

苦情を言われることもあるでしょうし、苦情を言われないまま迷惑がられているパターンもあります。(これはこれで辛い)

薪ストーブを使用しなくなる最も多い原因こそ『近所迷惑』なのです。

こうならないためにしっかりと乾燥させた質の良い薪を使用して、薪ストーブのメンテナンスをしっかり行う必要があります。

また、現在の薪ストーブ商品のほとんどが煙を無害化してクリーンな排気を実現する燃焼方式を採用しています。(触媒方式、リーンバーン方式、クリーンバーン方式など。現在はメーカー商品のほとんどがクリーンバーン方式)

→詳しく知りたい方はダッチウェストジャパンHPをご参照ください。

まとめ:とても素敵だが、近隣迷惑や薪を気にしなくてよい田舎や別荘地に限る

薪ストーブはとても雰囲気が良く暖房効果も高いですが、リスクもとても大きいです。

  • 煙が近所迷惑
  • イニシャルコストもランニングコストも高い
  • お手入れが面倒
  • 薪の管理が大変
  • 着火、薪の追加等も手間がかかる
  • 火災リスクが高い

住宅地に建てる家では不便が多そう出し、忙しいサラリーマンや忙しい主婦には大変な手間が掛かつためお勧めできません。でも、

  • 近所を気にするような土地じゃない
  • 薪なら裏の山に幾らでも
  • 時間なら幾らでも
  • 時間に余裕がある生活なので掃除も手入れも寧ろ楽しみ

という方には是非ともお勧めしたいです。